涼宮ハルヒのSS:長門有希と炊飯器と寸胴

涼宮ハルヒのSS:長門有希と炊飯器と寸胴

298 名前: ◆HqwJ0Jg70U 本日のレス 投稿日:2006/08/06(日) 08:28:56 KSBkhl88

俺には宇宙的超能力的もしくは未来的な能力など何一つなく、当然、光の巨人と殴り合いが出来るほどの戦闘能力はない。

そんな俺が閉鎖空間に行った所でどうにもならない事に気がついたのは、不覚にも古泉が乗ってきたタクシーに乗り込んだ直後のことだった。

よくよく考えてみれば、閉鎖空間と言うのは古泉曰くこの世界とは切り離されており、たまたま長門のマンションを中心に発生したとしても、

長門に被害が出ることはあるまい。

「なあ、帰っていいか?」

急にやる気をなくして、古泉にお伺いを立てる。と言うか、何故今回になって呼ばれたのかが分からんね。

「申し訳ありませんが、今貴方に帰られてしまうと、僕が困ります」

全く困ってないような0円スマイルで言われても、説得力がないんだよ。

大体、お前は閉鎖空間では無敵のエスパー戦隊だろうが。頑張って平和を守ってくれ、エスパーレッド。レッドしか居ないがな。

「残念ながら、今回発生している閉鎖空間は、今までの物とは少し違っていまして。

僕達としても、どうしていいのか分からないのですよ」

違うって、どう違うんだ。まさか、5月に発生したようなのじゃないだろうな。だとしたら、尚更お断りだ。

ハルヒの作る新世界とやらとは、なるべく距離を置きたいね。少なくとも、地球とアンドロメダくらいには。

「だとしたら、貴方はとっくに新世界のノアになっていますよ。

生まれ変わった世界に生きる唯一のつがいとして、涼宮さんの世界を大いに盛り上げていることでしょう。

ですが、貴方はここに居る。つまり、今回発生している閉鎖空間は、あれとは別物です」

……色々と突っ込みたい所はあるが、眠くてこいつの相手をしている気分じゃない。さっさと本題に入ろう。

「で、違うって、一体何がどう違うんだ?」

俺が直球を投げないと、こいつが俺の知りたいことを話すことはないからな。結局、いつものパターンに落ち着くわけだ。

「一番大きな違いは、閉鎖空間に長門さんが居る事でしょうか」

眠気が一気に吹き飛んだ。ちょっと待て。

確か、閉鎖空間と言うのは、ハルヒがストレス解消のために作った八つ当たり専用スペースだろう。何故そこに長門が居るんだ。

まさかハルヒの奴が、長門に八つ当たりしたがってるわけでもあるまい。

もしそうなら、ハルヒの奴をぶん殴って止めなきゃならんだろう。SOS団内での殺し合いなんぞ、俺は御免だ。

「正確に言えば、長門さんが閉鎖空間に侵入したのです。『機関』は複数のTEFI端末と接触していますが、

これまでに閉鎖空間に干渉した事例はありません。厳密に言えば、『涼宮さんの創造した閉鎖空間には』ですが」

まあ、いつぞやのカマドウマの例もあるし、今更長門の99の秘密が一つ増えたところで何とも思わんが、

何が楽しくてあんな灰色の世界に飛び込んだのかね。まさか、あいつらの親玉がM78星雲に住んでて、地球の平和に

関心があるわけでもあるまい。

「眼鏡をかけて巨大化するような事はありませんが、実際、彼女達の能力は凄いの一言ですね。

たった3人で『神人』を破壊しています。僕達『機関』の人間は、レーゾンデートル崩壊の危機に面していますよ」

お前らの秘密結社がどうなろうと知ったこっちゃないが、『神人』とやらをやっつけたんなら、仕事は終わりだろう。

俺が呼び出される理由がますます分からん。

「それが、一度は崩壊した閉鎖空間が、何度も現れているのです。

正確には、昨日の23時半を皮切りに、一時間半に一回のペースで発生しています。それも、決まって長門さんの住むマンションを中心に」

時計を見ると、そろそろ午前三時半。古泉の話を信じるなら、もう三十分程で四回目の閉鎖空間が発生する事になる。

「僕達は現在、『涼宮さんは、何らかの目的があって閉鎖空間を発生させている』と考えています。

長門さんの住むマンション、もしくはその近郊に何かがあって、涼宮さんは無意識のうちにそれをどうにかしたがっている。

一時間半と言うのは、おそらくレム睡眠の周期に連動しているのでしょう。

ともかく、涼宮さんが何を望んでいるのかを察知し、願いをかなえて差し上げるのが、今回の目的です」

結局、古泉の長ったらしい説明を聞いて分かったのは、いつもどおりハルヒの我侭をかなえるために東奔西走しなきゃならんって事だ。

やれやれ。



299 名前: ◆HqwJ0Jg70U 本日のレス 投稿日:2006/08/06(日) 08:31:11 KSBkhl88

子供の頃、俺は同世代の一般的な男子と同じく宇宙人と光の巨人が戦う特撮番組が好きで、当然のように毎週光の巨人を応援していた。

だが、今回ばかりは宇宙人の方を応援する。なにせ、片や光の巨人はハルヒの生み出した八つ当たりマシーン兼やられ役で、

もう一方の宇宙人は、何度も俺を助けてくれている仲間だ。考えるのも馬鹿らしいね。

そんな事を考えて閉鎖空間に足を踏み入れた訳だが、実際、宇宙人の戦闘能力は凄まじい物だった。

光の巨人はと言えば、斥力場に押しつぶされ、氷の矢に削られ、止めとばかりに二本の光の槍に貫かれて消滅した。全く見せ場はない。

なんか、少しだけ巨人が哀れに思えてきた。日本人ってのは、どこまでも判官贔屓が好きらしい。

「僕達の仲間も何名か張っていた筈なのですが、全く出番がありませんでしたね」

それは別にどうでもいいが。

崩壊する空を眺めていると、巨人に止めを刺した光の槍――朝倉涼子がやって来た。

「こんばんわ。それとも、時間的におはようの方がいいかしら?

ともかく、せっかく来たんだから、寄っていかない?」

まあ、長門が居るんだから、朝倉が居ても不思議はないんだが、何でまたエスパーの真似事なんか始めたんだ?

「建前としては、涼宮ハルヒの能力を直接体験して、より正確なデータを収集する事。『百聞は一見に如かず』ってね。

あと、『機関』に協力する姿勢を示すのと、示威行為も含めてるわね」

建前かよ。って言うか、お前らそんなにファジーかつ仲悪くていいのか。

「実際、『機関』もTEFI側も、一枚岩と言う訳ではないようです。我々も、TEFI端末をどのように扱うかについては、しばしば議論していますし。

今は利害が一致しているので、とりあえず協力していると言ったところでしょうか。

まあ、いざとなれば我々にもいくらか切り札はありますので、そうそう全面抗争にはならないと思いますが」

そんな営業スマイルでどろどろの政治模様を語るな。そして、俺を巻き込むな。

「あの巨人はまた来るだろうし、その対策も立てなくちゃならないから、ひとまず落ち着いて話の出来る所に行きましょう。

大丈夫、今の所は協力関係にあるんだし、耳にクリームを塗らせたりはしないわ」

そっちはそっちで、今にもナイフで襲い掛かりそうな微笑を浮かべるのはやめてくれ。

何だか胃の痛くなるような空間に耐えられず、俺はさっさと長門のマンションに向かう。

あの二人の嘘臭いスマイルに比べれば、長門の無表情が菩薩の相にも見えるぜ。

長門の部屋で、長門と朝倉、喜緑さん、古泉を交えてあーでもないこーでもないと話し始めて、はや一時間。

結論はまったく出ていない。とは言え、積極的に考えているのは古泉一人で、宇宙人三人組は、どうもやる気が感じられない。

俺はと言えば、最初の内こそ古泉の意見にあれこれ言っていたのだが、そもそもハルヒの考えなぞ分かるわけがない。

だんだんと、うんざりした気分になってきた。ハルヒよ、お前の会いたがってる宇宙人と超能力者は、実はあまり仲がよろしくないぞ。

そう言えば、喜緑さんも生徒会長の監視をしていたな。むしろ、長門と古泉のようにそれなりに仲良いのが例外なのかも知れん。

「昨日涼宮さんは妙に不機嫌でしたが、何故だか知っていますか?」

さて、ハルヒが妙に不機嫌なのは珍しくもないし、理由について思い当たらないのも、いつもの事だ。

どうせまた何か企んでるんだろうと思っていたのだが、何を企んでいるかについては見当もつかん。

「そう言えば、今日の貴方のお弁当は、長門さんが作っていましたね。涼宮さんは、その事を知っていますか」

古泉、お前も相当テンパってるな。昨日の帰りにその話をしたし、SOS団の人間は全員その事を知ってるだろ。隠した覚えもない。

「それ以前に、涼宮さんがその事を知る機会はありましたか?」

昼休みに一緒に部室に行って、その時に見られたな。

「そもそも、長門さんが貴方の昼食を作ることになったきっかけは?」

妙に真剣な古泉の口調に気圧され、一昨日の昼休みの出来事から一連の流れを説明してしまったのだが、よくよく考えてみれば、

近所のおばちゃんにゴシップネタを白状させられてるみたいだ。


300 名前: ◆HqwJ0Jg70U 本日のレス 投稿日:2006/08/06(日) 08:33:40 KSBkhl88

「なあ、ハルヒの目的を探るんじゃなかったのか?」

とりあえず、話の方向修正を図らなきゃならん。

そろそろ五時半過ぎで、5回目の閉鎖空間が出る頃合だ。今回失敗すれば次の発生は七時半で、そうなれば遅刻は確実だ。まあ、それまでに

ハルヒが起きるとは思うが、問題は、ハルヒが起きても問題が解決するかどうか分からないことだ。

ハルヒが起きてるうちに閉鎖空間が発生するのは珍しくないし、寝てる時にしか発生しないとして、明日の夜に再登場されても困る。

「いえ、涼宮さんの目的は大体分かりました。おそらくは、貴方の弁当箱を狙ったのでしょう」

古泉、寝不足で頭が働いてないんじゃないのか? 俺の弁当箱は安くて容量が大きいのだけが特徴の、普通の弁当箱だ。

宇宙的未来的なテクノロジーなど使われていないし、おかしな逸話も無い。中の物が腐りにくくなるような御利益も無いしな。

流石に長門たちも呆れてるだろうと思って見てみると、何故か朝倉は「あちゃー」と言う顔をし、喜緑さんも困った様に目を泳がせ、

長門も眉を1ミリ下げて残念そうな表情を作っている。ちょっと待て、お前ら。

「もしかして、ハルヒが弁当箱を欲しがってることを知ってたのか?」

どういう宇宙的論理思考でそういう結論に達したかは知らんが、最初から答えが分かっていたとしたら、

朝倉の方から誘っておきながら、三人が積極的に議論に参加しなかったのも納得できる。

「閉鎖空間の走査を喜緑江美理が行った結果、空間の中心が貴方のお弁当箱であった事を確認している。

お弁当箱の空間移動に伴い、閉鎖空間の中心も同じだけ移動していることから、現時点では最も可能性が高い」

相変わらず長門の説明は分かりにくいのだが、とにかく、俺の弁当箱が事態の中心なのは確からしい。

なるほど。だったら、とっとと弁当箱を渡しちまえば良かったのに。そうすりゃ、こんな明け方まで対巨人戦やらずに済んだだろう。

「お弁当箱が私個人の所有物なら、そうした。でも、あのお弁当箱の所有者は、貴方。あのお弁当箱を涼宮ハルヒに渡すわけにはいかない」

「有希ちゃんは、頑張ったんです。始めは巨人にダミーを掴ませようとしたんだけど失敗して、その後も色々と……」

真剣な表情で、長門が宣言すし、喜緑さんがフォローに入る。二人の真剣な表情に思わず頷きそうになるが、流石にそれはちょっとどうかと思うぞ。

「あのなぁ、長門」

長門の目を見ながら、少し真面目な表情を作ってみせる。じっと見返してくる目に吸い込まれそうな錯覚を覚えるが、今はそれどころじゃない。

「義理堅いのは良いが、度を過ぎると逆に不義理になるぞ。

理由もなく弁当箱をなくしたならともかく、理由があるなら、それを話してくれりゃ俺だって怒りはしない。

第一、弁当箱のためにあんな化け物と戦うなんて、馬鹿げてるにも程がある。怪我したらどうするんだ。

弁当箱はいくらでも替えが利くけど、お前の代わりは居ないんだから、もう少しそこの所をよく考えてだな……」

いかん、何だか妹に説教してるみたいになってきた。真摯に見つめてくる長門の視線が痛い。

古泉、ニヤニヤしながら見るな。朝倉も、そんなに楽しそうに微笑まない。お前ら、本当は仲良いだろ。

「とにかく、弁当箱はまた新しいのを買えばいいから、そいつはハルヒにくれてやれ。どうせ、すぐに飽きるだろ」

恥ずかしいので、そう言って話を切り上げると、長門は

「……そう」

と、少し残念そうな表情で0.5ミリ頷いた。いや、弁当箱を失うのは俺なんだが。

長門有希に萌えるスレ 33冊目

http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1154779643/l50


301 名前: ◆HqwJ0Jg70U 本日のレス 投稿日:2006/08/06(日) 08:37:39 KSBkhl88

その後、長門が弁当箱を投げつけると、巨人は弁当箱を巻き込んで空間ごと消滅した。そんなに俺の弁当箱が憎かったのだろうか。

それから急いで家に帰り、途中コンビニで買ったパンと、岳飛を失った北宋のように慟哭する目玉焼きを妹の口に放り込んで、

寝不足、朝食抜きのまま着替えて強制ハイキングに向かった。

教室につく頃には既に精も魂も尽き果て、体力、気力の限界に達していた俺は、話しかけてくるハルヒを無視し、そのまま机に突っ伏す。

正直、昼まで生きていられるかどうか自信が無い。

「おはよう。元気ないね。大丈夫?」

朝倉が話しかけてくるが、顔を上げる気力も無い。

と言うか、何でお前はそんなに元気なんだ。その体力を少しは分けて欲しいね。

「それ無理。あ、あと有希から伝言で、『今日のお弁当は無し』だって」

まあ、そうだろうな。予想はしていたが、やはりこたえる。こんな状態で学食に並ぶのか……

「『お詫びをするから、昼休み部室に来て』だって。確かに伝えたからね」

そういって返事も聞かずに去っていく朝倉。あのー、長門さん。旧館はもっと遠いんですが。

昼休み。それでも何とか生き延びた俺は、衰弱死寸前のゾウガメのような足取りで、文芸部室を目指す。

義理堅い長門の事だ。菓子パン位は用意してくれてるかも知れん。

ちなみに、何故か今日もハルヒが後ろについてきている。

キョン、あんたもっとシャキっとしなさいよ。男子が一歩外に出れば、七人は敵が居ると言うわ。

SOS団の団員ともなれば、二十人は居てもおかしく無いわね。

アンタみたいにボヤボヤしてると、人気の無い放課後の教室とかに呼び出されて、そのままサックリやられちゃうわよ?」

どこの宇宙人だ、それは。腹へって余計な口利くのも億劫なんだ。ほっといてくれ。

「仕方ないわねー。アンタ、今日はお弁当無いんでしょ? 特別に、あたしのをわけたげるわ。感謝しなさい。」

そういって、ハルヒが差し出したのは、妙に見覚えのある弁当箱だった。確か、どこかの次元の狭間に飛んでいったはずなんだが。

一体全体、どこから持ってきたんだ?

「ああ、その弁当箱ね。家の食器棚の奥に眠ってたのを発掘したのよ。

一応洗ってあるから、死にはしないと思うわ。

あ、ちなみにあたしはきちんと安全な弁当箱を用意してあるから、毒見はアンタ一人よ。他の人間を巻き込んだら許さないからね!」

まあ、大量生産の安売り品だ。同じ様なのがあっても不思議じゃない。

弁当はありがたくいただくことにした。元々ハルヒの所為で寝不足なわけだし、遠慮することはあるまい。

弁当の分だけ重くなった体を引きずり、何とか部室まで辿り着く。

ノックをし、返事が無いのを確かめてドアを開けると、昨日と全く同じ位置、同じ姿勢で長門が座っていた。

……ただし、重箱ではなく炊飯器と寸胴を前にして。

あのー、長門さん。その寸胴は何ですか?

「カレー」

弁当は無しって聞いたんだが?

「諸般の事情により、今日はお弁当を作ることが不可能となった。よって、お詫びに食事を用意した」

いかん、血中の糖分が枯渇して、頭がくらくらしてきた。

よく見れば、寸胴の陰に山盛りのキャベツが見える。そんな量をどうやって用意したんだ。

「授業時間中に作成した。大丈夫、出席はいくらでも替えが利く。でも、貴方の代わりは居ない」

……まあ、理由があってのことなら、先生も怒りはしないだろうさ。

キョン、分かってると思うけど、米一粒でも残したら、死刑だからね!」

「残さず食べて」

というありがたいお言葉をいただき、俺はただひたすら感涙に咽び泣いた。


ちなみに、親が帰ってくるまでの間、俺はフォアグラ用の鴨並みに恵まれた食生活を送ったのだが、それはまた別の話とさせてくれ。




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