涼宮ハルヒのSSその4

涼宮ハルヒのSSその4

続き

396 名前:名無しさん@ピンキー 本日のレス 投稿日:2006/05/21(日) 19:31:15 RouVu+kl

頭が混乱する。

彼の言っていたことは、真実だったのか。彼は、わたしとは違うわたしを知っている。

今、そのわたしが、このパソコンにメッセージを送っている。

ネットにも繋がっていないパソコンに。

彼の言葉を思い出す。

――お前は魔法のような力を使って

そう、これは魔法だ。彼の知っているわたしは、魔法を使っているのだ。

何かが壊れそうだ。信じられない。

メッセージは、緊急脱出プログラムを実行するか否かの選択要求で終わった。

緊急脱出プログラム。

それは、昨日、彼が見せてくれた栞に、わたしの字で書いてあった文言。

やはり、彼の言っていたことは本当だったのか。

そう考えると、彼の話の辻褄が全て合う。

平行世界。いや、可能世界か。

彼の世界のわたしは魔法使いなのだ。

そして、たぶん、ここに居る人たちも、特別な何かなのだろう。

それが、緊急脱出プログラムを起動する鍵だったのか。

彼はわたしを正面から見て、

「長門、これに心当たりはないか?」

と言った。心当たりなどあるわけがない。

「ない」

そう答えると、

「本当にないのか?」

そう訊いてきた。

わたしは、悲しみと少しの怒りを感じた。

「どうして?」

どうして二度も訊くのか。

わたしは何も知らない。何か知っていれば、とっくに話している。

あなたの知っているわたしと、わたしは、違う。そう言いたかった。

彼の信頼を得られていない。そう感じて、わたしは、とても悲しく、

そして、彼の話を事実と捕らえていなかった自分に腹を立てていた。

彼は、それには答えず、ディスプレイを睨み、何かを考え始めた。

ディスプレイに彼の真剣な顔が映りこむ。

程なく、彼はわたしを見ると、ポケットから紙片を取り出し、わたしに差し出した。

「すまない、長門。これは返すよ」

彼は、緊急脱出プログラムを実行するつもりだ、そう思いながら、

それを取ろうとした。手が震えて、うまくつかめない。

彼がいなくなるかも知れない。その思いが、頭を過ぎる。

気が付くと、わたしは、その紙片を掴んでいた。それは入部届。

彼に文芸部に入って欲しかった。ここで一緒に過ごしたかった。

しかし、彼の考えは違っていたのだ。涙が出そうになって、思わず目を伏せる。


397 名前:名無しさん@ピンキー 本日のレス 投稿日:2006/05/21(日) 19:32:34 RouVu+kl

「だがな」

彼の声を遠くに聞いた。

「実を言うと、俺は最初からこの部室の住人だったんだ……」

それ以上は、耳に入らなかった。

彼は、緊急脱出プログラムを実行するに違いない。

その結果、何が起きるのかは解らない。

でも、彼か、わたしかどちらかが消えるのは、確かだろうと思われた。

わたしの知る図書館の彼。

彼の知る魔法使いのわたし。

彼は図書館の彼に戻るのだろうか。

そうだとしても、もう、わたしは、一昨日以前のわたしではない。

彼がこの部室に来たとき、わたしは変わってしまったのだ。

それまでは、遠くから彼を眺めるだけでも満足だった。

でも、今は彼に恋している。どうしようもないほどに。

彼が、ここ三日間の記憶を失って、一昨日以前の彼に戻ったとしても、

わたしは戻れない。もう、彼を遠くから眺めて満足することはできない。

かと言って、彼に近付くこともできそうにない。

その彼は、文芸部室に来ることがあるだろうか。

あのドアを開けて、イスに座っているわたしを見ることがあるだろうか。

わたしは、図書館の彼と今の彼を同一視していた。彼を失いたくない。

でも、彼の決断を邪魔することはできない。

彼の腕が動くのを、視界の隅で捕らえた。

そのとき、わたしの脳裏を記憶の奔流が駆け抜けた。

わたしの記憶ではない。いや、わたしの記憶なのだろうか。

彼が部屋のドアを開け、わたしを見つめる。それは一昨日の夢。

わたしは、彼に抱きしめられていた。彼はわたしを好きだと言ってくれていた。

それは、幸せな気分を呼び起こし、今朝の夢を思い出す。

妙な感覚。これは未来の記憶?

なぜか、わたしは、わたしの初恋が成就したのだと思い、

すぐに、これから成就するのだと思い直した。

それは、心が弾むような思い。

そう、この騒ぎが終わったら、彼を探して文芸部に勧誘しよう。

彼に機関誌作りを手伝ってもらおう。やはり一人では大変なのだから。

そして……

そして、突然、何かが終わった。


――当該時空連続体の時連続性喪失を確認



―おわり―

398 名前:名無しさん@ピンキー 本日のレス 投稿日:2006/05/21(日) 19:34:00 RouVu+kl

以上でございます。お目汚し、申し訳ない。


399 名前:名無しさん@ピンキー 本日のレス 投稿日:2006/05/21(日) 19:34:51 oAEWPl07

リアルタイムで読めてよかった…GJです


400 名前:名無しさん@ピンキー 本日のレス 投稿日:2006/05/21(日) 19:35:23 eFSFWI6r

(´;ω;`)


401 名前:名無しさん@ピンキー 本日のレス 投稿日:2006/05/21(日) 19:37:54 RouVu+kl

あ、図書館のエピソード忘れた。たぶん2レス、投下します。

402 名前:名無しさん@ピンキー 本日のレス 投稿日:2006/05/21(日) 19:38:51 RouVu+kl

その日、わたしは、市立図書館の存在を知った。

それなりの書籍を保有し、一部を除き、無料で貸してくれるらしい。

わたしは逸る気持ちを抑えられず、その図書館の場所を調べ、一人で出かけることにした。

人の多いところは苦手なのだが、その日は気にならなかった。

期待を胸に入館し、並んだ書架を見て、心が躍った。

数多くの書籍。部室にはない本、高価で入手できそうにない本、希少で入手困難な本。

どれでも無料で借りられるのだ。まるで楽園。

図書館は人類最大の発明だ。

夢中で書架を回り、何冊か読みたい本を手にして、そこで気が付いた。

どうすればいいのだろう。貸し出してもらう方法がわからない。

周りを見回すと、貸し出しカウンターが目に留まった。

あそこで申し込めばよいのだろう。そう見当をつけて、カウンターに向かった。

「…………」

声を出そうとする。でも、職員の人は忙しそうだ。

何となく雰囲気に呑まれて、声をかけられない。どうしよう。

そうこうしているうちに、わたしの後ろに人が並び始め、恥ずかしくなったわたしは、

そのままカウンターの前から離れた。

なぜ堂々としていられないのだろう。自己嫌悪に陥りそうになる。

少し離れた場所から貸し出しカウンターに目を向けると、

借りる人は、何かカードのようなものを提示していた。あれが必要なのだ。

どこで申し込めばよいのだろう。見渡しても、それらしいところはない。

やはり、あのカウンターで申し込む必要があるようだ。

貸し出しカウンターに並ぶ人がいなくなったことを確認し、再度、カウンターの前へ。

「…………」

やはり気が付いてもらえない。

また後ろに並ばれるのも恥ずかしいので、少しカウンターの前をうろつくことにする。

職員の手が空いたら、カウンターの前に行こう。

「あの」

いきなり声をかけられ、身体が硬直しかけた。

「どうしました? その制服、北高ですよね」

振り向くと、男の人がわたしを見下ろしていた。

「…………」

声がでない。悪いことをしてたわけじゃないのに、なぜか後ろめたい気持ちになって、

そのまま俯いてしまった。

「あ、あの、どうかしました? 俺も北高なんで、何か困ってるなら」

やさしそうな声。同じ高校の人。助けてもらえるかも知れない。

うつむいたまま言った。

「……本」

「本?」

「借りようと」

「ああ……」

「どうしていいのか……」

「本を借りたい? 貸し出しカードは?」

「ない」

目を上げると、その人は額に手を当てていた。

わたしは泣きたい気持ちになっていた。いつもこうなのだ。人とうまく話せない。

自分の考えていることを相手に伝えられない。この人もあきれているに違いない。自己嫌悪。

今日は本を借りるのは諦めよう。人が少ないときに、またこよう。

そう思って、本を持ったまま戻ろうとすると、その人が言った。

「ここの本を借りたいのだけど、手続きがわからない。そういうこと?」

思わず振り向き、頷く。

「なら申込書に記入して、貸し出しカウンターに身分証明書と一緒に出せばいいんだけど」


403 名前:名無しさん@ピンキー 本日のレス 投稿日:2006/05/21(日) 19:40:16 RouVu+kl

きっと、わたしは途方にくれたような顔をしていたのだろう。

彼は、一つため息をつくと、

「身分証明書、持ってる? 何だったら手伝うよ」

そう言った。その正直そうな顔には、何かの意図があるようには見えなかった。

持っていたカバンから、生徒手帳を取り出し、その人に学生証を見せた。

「これ」

「お? 一年? 俺も一年なんだ。一年五組」

彼はそう言って笑顔を見せ、ここで待ってろよ、と言い残すとカウンターへ向かった。

「すいません。貸し出しカードの申込書ください」

そう言う彼の声が聞こえた。

彼が持ってきた申込書に記入すると、

「後はカウンターに、借りたい本と一緒に出せばいいのさ」

そういって、わたしの腕を取り、言った。

「あ、借りたい本、忘れるなよ」

彼の後についてカウンターへ向かう。職員はやはり忙しそうだ。

「すいません。お願いします」

彼の声に職員が振り向き、申込書を手に取った。怪訝そうに彼を見る。

「ああ、申し込むのは、こっち」

そういって、わたしの肩に手を乗せる。そして、わたしに言った。

「学生証を出して」

彼に言われるままに、生徒手帳を開いて、カウンターに出した。

生徒手帳はすぐに返され、そして、わたしの手には、借りた本と

新しい貸し出しカードが残った。

終わってみれば簡単なこと。でも、そのときのわたしには魔法としか思えなかった。

思わず彼の顔を見つめる。

笑顔を返してくれている。そして、やがてそれは困ったような表情に変わる。

なぜ困った顔をしているのだろう、ぼんやりとそう思った。

次の瞬間、わたしは、結構長い間、彼を見つめていたのだと気が付き、

恥ずかしさで俯いてしまった。

彼はやさしい人だ。

何か言わなくては、お礼を言わなくてはならない。でも、何ていえばいいんだろう。

焦りを覚えつつ、そう考えていると、

「キョンく~ん?」

と大きな声がして、小学生くらいの女の子が、彼に抱きついてきた。

「こら、図書館で大きな声を出すんじゃない」

妹なんだ、そう言って彼は、その子の頭に手を置いた。はにかんだような微笑み。

かわいい子だな、そう思って彼の妹を見てると、

 次に借りるときは、そのカードと一緒に、借りたい本をカウンターに出せばいい。

 返すときは、本だけをカウンターに返せばいい。じゃあな。

そう言って、彼は、その妹と一緒に図書館を出て行った。

仲よさそうな兄妹。彼の妹が少しうらやましい。彼らの後姿を見ながら、そう思った。

彼にお礼を言ってない。でも、同じ学校、同じ学年。また会う機会はあるに違いない。

そのときに言おう。

帰宅途中は楽しい気分だった。なぜか道端の風景が違って見える。

それはきっと図書館で本を借りることができたからだけじゃないのかも。

名前聞くの忘れた、そう思ったのは、家に着いてからだった。


http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1147942550/492-497

492 名前:淡雪 本日のレス 投稿日:2006/05/22(月) 00:03:49 W7CtV6/8


春の風に舞う、淡雪。

落ちた瞬間、すぐに溶けてしまう、儚い雪。

それは私の思いによく似ていて。

降り積もることも出来なければ、形として残ることもない。

でも、私の思いは消えない。

溶けた想いは一筋の川となって。

いつか届け、あなたの元へ。


逢いたい。

逢いたい。





493 名前:& ◆S5Z5TelaVU 本日のレス 投稿日:2006/05/22(月) 00:05:00 W7CtV6/8

気がついたとき、周りには何もなかった。

ここは、何処だ?

自分の位置を確認しようと思って驚いた。手が見えない。

体がない。俺がいない。

俺は透明人間にでもなっちまったのか?

そんな冗談交じりのことを思いつつ、どうしようかと途方に暮れていると。

『よく来たな』

頭に直接響く声。機械のような男とも女ともつかないような声。

『我は情報統合思念体。言語がないので、すまないが直接脳の電子情報に介入させてもらう』

そうか。この声は親玉か。

ならば話は早い、情報統合思念体!長門を返せ!

『いいだろう』

聞こえたが早いか、目の前に雪が降り積もる。

それは姿を形成し、俺のよく知る人物へ。

そう、長門有希。それを形成した。

久しぶりに見た姿に、涙が少し出そうになる。

「長門……」

声をかける。だが長門は変わらぬ無表情。

それに何か引っかかりを感じる。

おかしい。

確かに長門はいつも無表情だ。俺と再会したとしても無表情だという可能性だって高い。

でも、おかしい。

表情が読めない。瞳の奥まで閉ざされたような無表情。

俺の知っている長門なら、瞳を見れば感情は読める。

おかしい。

こいつは……

「長門じゃない」

こいつは長門じゃない。俺の知っている長門ではない。

違う。違うっ!

長門を返せ!



494 名前:淡雪 本日のレス 投稿日:2006/05/22(月) 00:05:56 W7CtV6/8

『……ならば、これでどうだ?』

瞬間、さっきまでの長門は光に戻り、新たな姿が形成された。

だが、そいつも違う。長門じゃなかった。

『……それならこれはどうだ?』

また新たな姿。これも違う。

違う!

違う!

違うっ!

どれも、長門であって、長門じゃないっ!

『……不満か?』

ああ、どれも長門じゃない。

『……ならば言え。どんな性格にもしてやる。お前の望む長門有希を作り出してやる』

作り出す……だと!?

長門有希。我が作り出したインターフェイスの一つ。初期設定ぐらいなら簡単に操作できるぞ』

そう言うが早いか、何人もの長門が現れる。

笑っている奴、元気のいい奴、むすっとしてる奴……

いろんな表情の長門……

……違うっ!

こいつらはあの長門なんかじゃない!

『どれも「長門有希」だ』

違う。

俺は、何も『長門有希』を望んでるわけじゃない!

俺は、『俺の知っている長門』を取り戻しに来たんだ!

ほかの何物でもない、俺の長門だ。

『どれも「長門有希」だ。可能性としてあり得た「長門有希」だ』

違う。俺は認めない。

『何故拒む。あの改変世界の「長門有希」も、可能性としてあり得た。なのに何故、お前は拒む』

それを言われ、俺は一瞬止まる。

可能性としてあり得た長門。あの長門は、これらの長門として居た可能性だってある。

なのに何故、俺は長門ではないと思う?

……答えなんて簡単だ。



495 名前:淡雪 本日のレス 投稿日:2006/05/22(月) 00:06:44 W7CtV6/8

ふと、思わず笑い出したくなる。こんなに簡単な問題は、高校のテストにはないぜ。

それはな、この長門は「SOS団の長門」ではないからだ。

俺たちとの半年の記憶を共有していない長門だからだ。

おっと、だからといってこの長門に今までの記憶を入れたって、それは長門じゃないぜ。

それはあの長門にされちまった、別の長門だ。

俺は別に頭もよくない、赤点レーダーギリギリを飛行するような馬鹿さ。

だから上手く伝えることなんて出来ない。つーか頭がよくても無理だろうよ。

俺の言葉に出来ないような、モヤモヤした部分が言ってるんだ。

「長門は、長門。ただ一人」ってな。

ここで作られた長門だって、一人一人違う。

生命ってのは、まったく同じなんてあり得ないんだ。

物だってそう。同じように生産されたからって、それらがまったく同じとは限らない。

そういうものだから、どれもみんな平等に大切なんだ。

あの改変世界の長門だって、ハルヒだって、朝比奈さんも、小泉も、可能性としてあり得た。

だけど、俺の知っている、俺が居た世界のSOS団員はあいつらじゃない。別人だ。

だからこの世界の俺は、この世界のSOS団員と一緒に居るんだ。

俺の居るべき世界は、こっちだからな。

もし、俺が最初からあの世界の住人だったら、この状況で迷わずあの長門を選ぶだろうよ。

それは、その俺があの世界にいるからだ。

わかったか!?情報統合思念体!

可能性とか何とか言ってるが、俺の世界にいた長門は、あの長門だけだろうがよ!

他の長門もあり得たかもしれないが、あり得たのはあいつただ一人なんだよ!

無口で、無表情で、でも決して無感情ではない、不器用なあいつ。

そう、俺が好きになった長門は、あいつただ一人だ。

あ~!俺自身、俺が何を言ってるかよく分からんが、そういうことだ!

そこまで一気にまくし立てた後、俺は返事を待つ。

暫くの沈黙、そして……



496 名前:& ◆S5Z5TelaVU 本日のレス 投稿日:2006/05/22(月) 00:08:08 RLfc8PRr

『了解した。試すような真似をしてすまなかった』

瞬間、今まで周りにいた長門が全て光に変わる。

その光の粒子は、降り続く淡雪に似ていた。

『お前なら有希を預けても大丈夫そうだ』

その後、情報統合思念体はだいたいこんな意味のことを言った。

長門に溜まっていくバグ、すなわち感情は、この先も異常動作を起こさないとは限らない。

その際、俺がきちんと世界を元に戻せるか、情報統合思念体は心配だったらしい。

つまり言い換えれば、俺がきちんとあの長門を選べるかどうか試したというわけだ。

長門の作る世界は、おそらく長門がなりたいと思った長門になっているに違いない。

そしてそれは、おそらく俺が好きになりそうな長門だ。

俺が本当の長門を選ばず、その理想の、空想上の長門を選ばないか心配だったのだ。

まったく、笑わせる話だぜ。

そんな空想になんか、俺は左右されない。

「長門」が「長門」であれば、俺はどんな長門だって、好きになる。

これは自慢じゃないが、胸を張って言ってやろう。

『そうか……』

その瞬間、この空間が変化を始める。

その向こうに見えたもの、景色。

多分、俺の推測が正しければ、あの景色は3年前の俺たちの街だ。

白い世界。淡雪だけがしんしんと降り、すぐに儚く溶けてゆく。

淡雪舞う中、まるで雪が人になっていくような……

そうか。

これが長門有希の、誕生の瞬間だったのか。

その長門がふいにこちらを向く。

不思議そうに首をかしげ……

『これからも、有希を頼む』

そんな声をバックに、俺の意識は途絶えていった……





497 名前:淡雪 本日のレス 投稿日:2006/05/22(月) 00:08:53 RLfc8PRr


「う……うぅん……」

目が覚めた。見慣れた天井。俺の家。

体を起こし、窓の外を見る。

少し寒いと思ったら、雪が降っていたのか。

春風に舞う淡雪。積もることなく溶けゆく。

ふと、服を引っ張られる感じがして、そちらの方を向く。

見て一瞬驚く。しかしすぐに、俺は笑みを浮かべる。

そこに眠そうな目をこすって布団に横になっているのは、我が愛すべき妻。

「おはよう、有希」

「おはよう、あなた」

有希が笑みを浮かべる。可愛いと今でも思う。

「さっき驚いた顔してた。何故?」

問われ、俺は苦笑しながら答える。

「昔の夢を見たんだよ。その頃の俺が今のお前を見たら驚くかなって?」

「……そうね」

ふふっと笑いつつ、散らばった下着を集める有希。

本当に信じられないよな、あの頃の俺からすれば。

でも、俺はまぎれもなく取り戻したんだ。この「長門」を。

俺たちの出会いは、あの文芸部室でだった。

だけど本来は、それより3年前だった。

でもな、最近思う。お前はそれより前に俺を見たんじゃないか?

生まれた瞬間、俺を見たんじゃないのか?

聞いても、有希は答えない。ただ笑みを返すだけ。

本当のことなんて今でも判らない。

きっと多分、本当のことなんて誰も知らないのさ。

俺がこの俺、有希がこの有希である意味だって、本来なら意味がないことかもしれない。

それでも俺はこの有希を選んだ。選び取った。

なぜなら、そうだなぁ……

真実なんて、降った瞬間溶けて無くなっちまうような淡雪のようなものだとしても。

淡雪が降ったこの瞬間は、綺麗だって誰もが思うからかもな?



(終わり)




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