コフートのメモ

コフートのメモ

コフートのメモ

 私がもっとも好きな精神分析家のハインツ・コフートは、人間は自分をほめてほしい野心の極と、自分が安心していられるように強いカリスマをもっていたいという理想の極の間を行ったり来たりする悲劇的動物だと述べた

http://www.hidekiwada.com/essay/essay10.html



内省・共感・情動調律 affect atunement

 自己心理学の概念としては共感から、情動調律に言い換えが進んでいる。

 内省  自分の内界を観察

 共感  相手になりかわって内省すること。データの収集。

 情動調律  共感による関係で結ばれた状態。


自己 self

 「自己の分析」の頃、コフートは自己を自己イメージ、自己表象という意味で使っていた。

 それが次第に「主体性の独立した中心。体験を受け入れる独立した容器」(Kohut & Wolf 1978)というように、「私 I」「私自身 myself」のような体験に近い experience-near まとまりを指すようになった。これに比べるとフロイトの自我、超自我、エスという概念は体験から遠く experience-distant 、具体的なイメージを思い浮かべるのが難しい。


自己対象 selfobject(self-object)

 自己の一部として機能する外界の重要な人物を指す。ジェイコブソン、やカーンバーグのいう対象関係とは内的対象 internal object である自己表象 self representation と対象表象の関係であるのに対して、コフートの対象関係は、心的世界の中心である自己と一部が主観的な色彩を帯びた外的対象 external object の関係を指す。従ってコフート理論は現実の他者からの影響を重視するという点で外傷論に近い。


発達理論

 母親は赤ちゃんにまるで自己があるかのように反応する。母親の心の中のイメージとしてある自己を仮想自己 virtual self と呼んだ。

 コフートによれば赤ちゃんは自己主張する存在であり、自己対象からの共感的反応を当てにしている。

 赤ちゃんは自己対象(母親)の共感的な反応を通じて、徐々にまとまりを増してきて、生後2年目には中核自己 nuclear self が形成される。

 中核自己は向上心と理想という二つの極、その中間領域である才能や技術という3つの要素を持っており、双極自己 bipolar self とも呼ばれる。これら2つの極は一次的な自己愛の喪失に対する防衛として形成される。向上心の極は誇大的露出的な誇大自己 grandiose self が母親の共感的な映し返し mirroring、承認、響き返し echoing によってより現実的で成熟した向上心へと変化していく。母親が非共感的に接すると外傷体験となり、自己は断片化 fragmentationし、発達が停止してしまう。こころの構造には欠損 defect が残り、未熟な誇大自己が保持される。

 理想の極は理想化された親イマーゴ idealized parent imago であり、親が理想化を受け入れ、共感的に反応していると、赤ちゃんは最適な欲求不満 optimal frustration の中で徐々に自己対象への評価を現実的なものに改め、自分をなだめるという機能を内在化させ、自己は安定したまとまりを持つようになる。

 このような心的構造形成のプロセスを変容性内在化 transmuting internalization と呼ぶ。


自己対象転移(自己愛転移)

 自己愛人格障害の分析において、自己の欠損のために自己対象転移が引き起こされる。この転移状況が過去の外傷体験の繰り返しであるために、古典的精神分析の文脈では、マゾヒズム、反復強迫などと語られるが、自己心理学的観点にたてば、あらたな成長を求める自己の健全さの現れである。

* 「自己の分析」における分類

理想化転移 idealizing transference

 理想化された親イマーゴ idealized parent imago の治療場面での再活性化

 阻害され満足されなかった発達要求克服の試み。

 古典的精神分析では攻撃性に対する防衛と見なされることが多かった。

鏡転移 mirror transference (Kohut 1971)

 「患者を認め、賞賛し、適切に褒めてくれる、応じてくれる自己対象からの確認を要求するような誇大自己が治療によって再生すること」(Lee & Martin 1991)

http://72.14.207.104/search?q=cache:N3we6sIS_hMJ:www2p.biglobe.ne.jp/~you_/kohut.html+%E3%82%B3%E3%83%95%E3%83%BC%E3%83%88%E3%80%80%E6%A5%B5&hl=ja&gl=jp&ct=clnk&cd=2&lr=lang_ja&client=firefox

* 自己愛という対象関係

 コフートの独創的なところは、自己愛を自己対象(selfobject)との関係であるとしたところだろう。フロイト的な自己愛っていうのは対象に向かうべきリビドーが自分に向いてしまうというモナド的自閉というイメージがあるけど、自己愛が対象との関係に拡張されたことで、健康な自己愛という新たな視野が精神分析に加わった。

* バッド・マザー理論

 コフートは病理の原因として非共感的な自己対象、つまり母親のあり方 being を重視している。だから治療においても、治療者のあり方が問われるんだけど、optimal frustration によって欠損が修復されるという理論だから、治療者が非共感的になってしまうことが治療上の前提とされている。これは患者さんによって動かされる治療者の感情(逆転移)が、見方さえ変えれば治療につながるというのと似ている。これは大きな治療上のアイディアだと思う。


 1)未熟な無境界融合転移 archaic merger transference

 患者は治療者が患者の心中にある考えをわかってくれていると思い込んでいて、治療者が患者の手足であるかのような完全な支配を要求する。

 2)双子転移 twinship transference(分身転移 alter-ego transference)

 分析家が自分のようである、自分に似ていると仮定される。

 3)(狭義の)鏡転移

 治療者は別個の人間として体験されているが、患者を褒め、響き返し、映し返すことが期待されている。

 治療者の共感によって無境界融合転移→鏡転移→理想化転移と転移の質が変化し、未熟な誇大自己はしだいにまとまりのある自己へと変化する。

* 「自己の治癒」における分類

 1)映し返し無境界融合

 2)理想化無境界融合

 3)双子無境界融合

 これらのいずれも治療者が共感による共鳴をなくせば、無境界融合退行状態になる。


垂直分裂と水平分裂

自己愛人格障害の2類型

 水平分裂

  未熟な誇大自己が抑圧/否定されている。自己愛の栄養元が遮断され、自己愛が欠乏。自信喪失、抑鬱

 垂直分裂

  誇大自己が心的な現実的区域から排除されている。誇大自己は意識されている。




コフート自己心理学に基づく自己発達尺度の作成の試み

http://www.bunkyo.ac.jp/faculty/human-in/ronbun/2002_psycho/04kawasaki.html

1.問題と目的

自己愛傾向を測定する尺度のなかで最も有名なのが、Raskin&Hall(1979)の自己愛人格目録(Narcissistic Personality Inventory;NPI)である。これによって日本においても80年代半ば頃より、複数の研究者がこのNPIを参考に日本語版を作成し、NPIの信頼性や妥当性の検討が行われ、現在NPIは自己愛人格を研究する上で重要な手段となっている。しかし、NPIはDSM-Ⅲ(1980)の自己愛人格障害の診断基準を基にしており、自己愛の発達についての統合的な理論に基づくものではないことや、自己愛のなかでも自己顕示、自己耽溺の側面が強調されていることが問題点として挙げられている。そこで本研究では、自己愛に関する代表的理論の一つであるコフート自己心理学に基づく質問紙尺度の作成を試みることとした。

コフートの自己に関する理論は、臨床的アプローチや経験的アプローチから成り立っている。中心概念である中核自己の基本的な構造について説明すると、その構成要素として、1番目に力と成功得ようとする基本的な努力が生まれてくる極(つまり野心の極)があり、誇大性と顕示性を示している。この極が成熟し、よく機能する時、健康な自己主張や自分の実力と状況に見合った野心の追求が可能になっていく。次に、2番目に理想化された基本的目標をはらんでいる極(つまり理想の極)があり、この極が成熟し、よく機能する時、内的な価値基準や指導原理が確立して、それを尊重するようになっていく。そして、3番目に野心と理想の間に成立する緊張弧によって活性化される中間領域には、才能と技能を考えた。つまり、野心の極と理想化の極には一定の緊張関係が存在する。そこで実際の現実的な力を持った才能と技能がこの両極の間に介在し、ほどよく折り合いをつけることによって、自己は実際の心理学的活動の流れを現実化することになる。このように、自己は3つの構成要素を持っているが、機能する時は一つの全体性を持った行為の中心として機能する。

自己の発達と病理に関しては、コフートの最初の著書「自己の分析」(1971)の序文の中で図示されている。それを編成したものを、Figure 1に示した。自己はまず(3)のレベルにおいて登場する。自己の中核は成立しているが、断片化しやすいことから、断片自己期と呼ばれている。この段階におちこむと、心気症的となり、指しゃぶりなどの自己刺激を用いて自己のまとまりを図ろうとする。他方、理想の極では全能的な神や絶対者への宗教的感情に没頭したりする。さらに発達して1歳を過ぎる頃から、(2)の時期に至ると、誇大自己と理想化された親イメージが形成され始めるが、断片から一つの統一体として自己が形成される時期という意味で凝集自己期と呼ばれている。(1)の段階まで発達すると機能的自己と呼ばれる。誇大自己は自信と安定した自己評価へと変化し、理想化された親イメージは現実的な他者認識にたった賞賛、物事に熱中できる能力として、自己実現の基盤を提供することになる。なお、(2)のレベルに固着しているのが自己愛人格障害であり、自己の発達は(3)から(1)へと向かう。退行しても普通は(3) のレベルにとどまるが、精神病ではもっと進んで(4)に達すると、現実との接点が失われてしまう。

こうした発達が起こる上で、環境の重要さは当然だが、これについてコフートは、重要な他者、特に親との関係から分析を行い、自己対象という用語を用いて、発達について説明している。自己対象とは、自己から分離し、独立したものとして経験されない対象、という意味を持っている(中西、1991)。つまり、赤ん坊にとって母親という存在は、自己とは分離した対象とは認識されていない。この時の母親が赤ん坊にとっての自己対象である。そして人間は誕生から死まで、この自己対象という関係の中で生きていると考えられている。コフート(1977)は、親が子どもに十分な自己対象経験と、適度な欲求不満を与えるとき、自己対象の機能が子どもの心の中に内在化される過程を「変容性内在化」と呼んでいる。

このように、自己の発達についてみていくと、自己愛やその障害の測定においては、優越感や自己顕示だけを主要な指標とするのでは不十分であると考えられる。コフートは「自己愛はパーソナリティの発達において中心的なものであり、そのため、自己の発達とは自己愛の変化である」と述べている(1977)。そして、自己愛は、健康に貢献することも、病気をもたらすこともでき、それは2つの主要な原始的な誇大自己と理想化された親イメージが変容性内在化を通じてどの程度、変容され、そこで、すでにある自己構造の強化、あるいは新たな自己愛的布置(誇大自己と理想化された親イメージ)の形成にどの程度役立っているか、ということによって決まる。以上のような、コフート自己心理学理論に基づいて、自己に関する尺度の作成を試みることとした。




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